メイプル(楓)のギターを使ってみての感想 – 果たして音は柔らかいのか?

GGWS-1Sにおいた桜井 Maestro-RF メイプル横板/裏板 楽器

裏横板がメイプルのギターを買って約一年使いました。最初は正直見た目に違和感がありましたが、もう慣れてその美しさにほれ込んでいます。

あまり世の中で使っている人の少ないメイプル製のギターを使っている感想と音の考察を書いてみたいと思います。

このサイトのクラシックギターの材料や楽器その物に関する記事は以下の記事でまとめてあります:

黒ではなく白いギター

メイプルのギターを使っていて一番の特徴は何といっても見た目です

クラシックギターによく使われるのはローズウッド系の木(ローズウッド、ハカランダ、ココボロ、マダガスカルローズウッド等)ですが、これらはどれも黒、あるいは焦げ茶色の見た目をしています。

世の中に出回っているクラシックギターのほとんどはこれらの木で作られた楽器なので、我々はギターといえば横と裏は黒い!と刷り込まれています。

でも、メイプルは白あるいはクリーム色の見た目をしているので、普通のギターとは見た目が異なります。

GGWS-1Sにおいた桜井 Maestro-RF メイプル横板/裏板

人前に出ると、「フラメンコっぽい」とかいわれます。フラメンコギターによく使われるシープレスといわれる木も同じような色なので、確かにぱっと見はフラメンコギターに見えます。

でも、よくあるシープレスが木目が少なくすっきりしているのに対し、メイプルには独特の杢が現れます。私のギターはカーリーメイプルと言われる、縞々模様の入った木です。

写真にとるとあまりきれいに見えないのですが、実際にはこの縞々が光の当たり具合によってキラキラとして非常に美しいです。板目のハカランダの複雑な模様もかっこいいのですが、カーリーメイプルの杢も実物はかっこいいですよ。カーリーメイプルは非常にレアなのだとか。

メイプルにはほかにも、バーズアイメイプルとかキルティッドメイプルとか、様々な模様があらわれることで有名です。このページとかに見本があります。バーズアイメイプルは特に貴重だそうです。このクラシックギターも見たことあるのですが、私的には正直ちょっと気持ち悪い見た目と感じました。この辺りは個人の嗜好もあるので一概には言えません。

メイプルの見た目の悪い点として、あまりほかの人が使っていないので、すごい弾ける人だと思われてしまう点があります。弾く前にハードルが上がるのでちょっと困ります(笑)。

メイプルの音は柔らかい?

楽器は見た目も大事ですが、やはり一番大事なのは音でしょう。

よく言われるのは「メイプルを使ったギターの音は柔らかい」という話です。その根拠として、木材の比重が挙げられます。比重とは、同じ大きさ(体積)に対する重さのことで、大きいほど重い木であるということが言えます。また、中身が詰まっているということなので、硬い木であるといえるかもしれません。

こちらのページにまとめられていますが、確かにメイプルの比重はローズウッド系の木よりも小さいです。ハカランダの比重が0.85、ローズウッドが0.75~0.85なのに対し、ハードメープルは0.72、ソフトメープルは0.61となっています。ちなみに、時々ギターに使われるジリコテ(シャム柿)は0.88、ココボロに至っては0.98~1.20となっています。ちなみに、比重は水の重さを1とした比率なので、ココボロは水に沈むということになりますね。

確かに比重の面ではメイプルはローズウッド系の木に比べて軽いということが言えますが、では比重が重ければ硬い音に、比重が軽ければ柔らかい音になるのか?という疑問が生まれます。直感的には重ければ振動しづらいので、弦の振動に対して裏板と横板が振動せず、表面版の振動がよりダイレクトに音になるような気はします。

しかしながら、私が以前使っていたのはハカランダ+松(スプルース)の黒澤哲郎 especial、今使っているのはメイプル+松(スプルース)の桜井 Maestro RFなのですが、正直メイプルを使ったギターの方が柔らかい音がするとは思えません

むしろ、メイプルを使ったギターの方がくっきりした音が出ています。また、このギターを買ったときにいろいろなギターと弾き比べましたが、ローズウッドを使っているギターでこのギターよりも柔らかい音がする楽器はたくさんありました。

黒澤哲郎の前はアストリアスの杉(シダー)表面版のギターを使っていましたが、表面版の松と杉の違いはすぐわかりました。よく言われるように杉の方が明らかにならしやすくて甘い音がします。ではなぜ裏横板の素材の違いは明らかに出ないのでしょうか。

裏横板の素材が音に直接影響しない理由として、まず、そもそもギターの音は主に表面版から出ているということがあげられるかもしれません。表面版に対して裏横板の振動は小さいので、音に与える影響も小さく、いわば音のエッセンス的な影響しかないもかもしれません。

裏板の材料についてはこちらの記事も参照ください:

また、作り手によって素材の厚さや力木の構造が異なるのも大きいのでしょう。比重が違うといっても、ぺらっぺらに薄く切ったローズウッドに比べてぶ厚いメイプルは振動しづらいと思います。また、裏横板を支える力木の構成によっても振動の程度は変わりそうです。

作り手が同じで構造も厚さもまったく同じなら、という疑問も生まれますが、今度は木の個体差という問題が出てきそうです。上記のページでそれぞれの木の比重が書かれていますが、あくまで一般的な値であって、天然の材料である木はそれぞれ個性がありそうです。

そんなわけで、私の実体験からは、メイプルのクラシックギターの音は柔らかいとは限らないと思います。

材料よりも音(と見た目)で選ぶべき

そんなわけで、私の結論としては、柔らかい音のギターが欲しいからといってメイプルを選んではいけない、ということになります。

ローズウッド系の木でも、よく低質なハカランダよりも高質なハカランダの方がいい音がするといわれています。この材料だからこう、と先入観を持たずに、それぞれの楽器の音の個性を見て選びたいものです。

もちろん、柔らかい音のメイプルを使ったギターもあると思いますので、そこははき違えないように。。。

一方、見た目という点では裏横板の材料は非常に重要だと思います。見た目が汚らしいギターよりも、自分が見て美しいと思えるギターの方が弾くときのテンションも上がるし満足度が高いと思います。音と同じでここも個人の趣味が大きく出るところですので、どんなギターを選んでもまったく問題ないと思います。

私はメイプルのギターを気に入って使っていますが、皆様にメイプルのギターをイチオシするつもりはありません。ただ、仲間が増えるといいなぁとは思いますが。。。昔はトーレスをはじめギターでもよく使われていた材料ですし、バイオリンでは今も使われていて、楽器に合う木であることは間違いないんですけどね。。。そういう意味では、バイオリンにローズウッドってどうなんだろう?と思ったら一応あるみたいですね。。。

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