40種類以上の弦を使ってきた管理人がおすすめのクラシックギター用弦の記事を書きました

平均律とクラシックギター 純正律はなぜ使われないのか

Microtonal Guitar豆知識
豆知識

ギターやピアノ平均律楽器といわれます。音程を取るのが容易である一方、和音に濁りが出るともいわれます。そもそも平均律とは何か、クラシックギターで純正律を使う方法はないのかについて書きたいと思います。

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そもそも「美しく響く和音」とは?

まず基礎知識として、美しく響く和音とはどういうものなのかということについてです。

音の高さは周波数(Hz)であらわされます。チューナーでもラ(A)の音が440Hzとか442Hzとかそういった話が出てくるかと思います。

単純な整数比の音同士は美しく響く

大昔にピタゴラスという人がこの周波数について美しく響きあう組み合わせの法則を発見しました。それは、単純な整数比であらわされるほど美しく響く、というものです。

たとえば、同じ音同士は同じ周波数なので比は1:1です。1オクターブ上の音は2倍の周波数なので1:2です。これらの音が濁りなく聞こえるのはその通りかと思います。

1:3の比の和音

次に単純な整数比は1:3です。これはある音に対して周波数を3倍した音になり、440Hzに対しては1,320Hzとなります。ただし、3倍にしてしまうと1オクターブを超えてしまうので2:3とし、660Hzとします。この音は音階でいうとミ(E)に相当します。ラとミが美しく響くのは異論はないかと思います。

1:5の比の和音

次に単純な整数比は1:4ですが、これは2オクターブ上の音になるので無視します。その次は1:5です。これも5倍だと1オクターブ上になってしまうので4:5にします。440Hzに対しては550Hzです。この音はド#です。

この3つの音を鳴らすと、ラ、ド#、ミとなりAの和音になります。この音が美しく響くのにも異論がないかと思います。

どこまでの比を美しく思うかは人それぞれで時代によっても変わる

では、どこまでの比を人は美しく思うかというと、実は個人差があるそうです。

また、時代によっても変わるそうで、きわめて曖昧な人間らしい研究課題のようです。

2:3と4:5の音ばかり集めた純正律

純正律は平たく言うと、この美しく響く2:3と4:5の音ばかり集めた音階です。

したがってその和音には濁りがなく、美しい音楽が奏でられます。

同様にして音階を作っていくと、イ長調(ラから始まる音階)は以下のような周波数になります:

440 Hz
495 Hz
ド#550 Hz
586.67 Hz
660 Hz
ファ#733.33 Hz
ソ#825 Hz
880 Hz

純正律を貫くと無限に音階が必要

上の音階ではとりあえず8音を定義しましたが、これでは不足します。たとえば、シ(495Hz)に対して2:3と4:5を定義すると742.5 Hzと618.75 Hzになり、742.5 Hzから。。。と繰り返していくと実は無限に音階が出来上がります

なぜこうなるかというと、どれだけ繰り返しても元の音には戻らないからです。今の音階のようにド、レ、ミ、…、ドと戻るのであればそこで打ち切られるのですが、残念ながらオクターブ上の音をあらわす「2倍」と美しい和音の「3倍」と「5倍」は素数なので、どうやっても戻らないのです。

楽器によっては違う調に移るのが難しい

そうすると何が起こるかというと、楽器によっては曲の中での移調が難しくなります

移調とはつまり基準となる音を変えることです。たとえばシ(495Hz)を基準にするとまたここを基準に2:3と4:5の比で音階を作るわけですが、元には戻らないという性質から、ここから作られる音階は必ずしもラ(440Hz)を基準にしたものと同一にはなりません。

この問題はバイオリンは管楽器などの自由に音程を変えられる楽器の場合は原理的には問題ありません。奏者が調整すればいくらでも音を作り出せるので何とでもなります。ちなみに、バイオリン奏者にとっては楽譜上のレ#とミ♭が違う音だったりするそうです。

しかしながら、ギターやピアノのような音程を簡単には調整できない楽器の場合にはどうにもなりません。移調をしたければそれだけ音の数が増えるですので、それだけの数のフレットや鍵盤を用意する必要があります。

当然、弾きづらくてしょうがない楽器になってしまうかと思います。

和音の濁りを許容して演奏性を重視した平均律

一方、平均律はある程度の和音の濁りは許容してでも演奏性の方を重視したものになります。

作り方は単純で、ある音から次のオクターブの音(2倍の周波数)の間を12個の等間隔で分割したものです。周波数でいうとある音に対して次の音が約1.06倍の周波数になっています(1.06を12回かけると2になる)。

なぜ音の数が12なのか?

そもそもなぜ音の数が12なのかというと、結論から言うと理論と実際がちょうどうまく妥協点を見つけられるのがこの数だから、ということになります。

上で出てきたピタゴラスの理論で周波数比が単純な1:3の音をどんどん作っていき、本当はちょうど1オクターブ上の音に達したところで終わり、としたいです。しかしながら、上でも書いたように2と3は素数なので無限に繰り返しても元の数に戻ることはありません。

そこで、どこかで妥協できないかと計算をしていくと、12回目に元の音に近い音になります。この時の誤差が23.46セントとなっています(1セントは半音の1/100)。

なぜこうなるかというと、数学的には2のべき乗と3のべき乗が近くなるのは。。。という理論があるのですが、それはさておきピタゴラスはこの23.46セントを許容してここまでで1オクターブと決めました。

ちなみに、この次に元の音に近づくのは正確なのは忘れましたが、30だか40だかそれくらいだったような。

なので、音の数は12というのは完全な理論でそうなっているわけではなく、理論と実際の妥協点なわけです。

美しい和音からは少し外れる平均律の周波数

というわけで1オクターブ内の音の数は12と決めたので平均律ではこの間を等間隔で割りそれを音としました。

しかしながら、これによって得られる音は最も美しい音が得られる純正律の音からは少し誤差が出てしまいます

平均律純正律
440 Hz440 Hz
493.88 Hz495 Hz
ド#554.37 Hz550 Hz
587.33 Hz586.67 Hz
659.25 Hz660 Hz
ファ#739.99 Hz733.33 Hz
ソ#830.61 Hz825 Hz
880 Hz880 Hz

上の表のように、基準となるラ以外の音はすべてずれています。このため、純正律に比べると和音に濁りを感じるわけです。

平均律はフレットが打ちやすい

ギターに立ち戻ると、平均律はフレットが打ちやすいというメリットがあります。

平均律の場合は隣り合う2つの音の周波数が約1.06倍という特徴がありました。弦楽器では周波数の比は弦の長さで決まるので、弦の長さが1.06倍になる位置にフレットを打っていけば平均律の楽器になります

周波数の比は長さの比で決まるので音の高さに依存せず、したがってギターの6つの弦共通で1つのフレットがまっすぐ打てるわけです。

ちなみに、純正律の位置にフレットを打つとこんな感じなってしまいます:

「Microtonal Guitar」の画像検索結果
This is Classical Guitarより

この楽器はMicrotonalと呼ばれ、フレットが可動式になっています。実際に演奏した動画は以下を参照ください:

Microtonal Bach Experiment 1 – Which Tuning Sounds Better?

繰り返しますが、この状態でも限定された調にしか対応できておらず、すべての調となるとフレットのお化けになります。

クラシックギターは平均律の影響を受けやすい

平均律は原理上和音の濁りが避けられないですが、音が同時に多数出てくるような場合には人間はそれを感じづらくなります。

たとえばオーケストラ、ピアノ、ロックといった音楽では影響は小さいといえます。

一方、クラシックギターのように音の数が少ない上に平均律の楽器というのは濁りを感じやすい楽器です。

ギターで平均律の問題を体感するにはハーモニックスを使う

平均律は理想的な和音からはずれているとはいっても、普段弾いている分にはそれほど問題を感じないかと思います。

平均律は広く使われているだけあってそれなりに誤差が少なく、狙って濁りを出さないとなかなか感じられません。上の動画でもいろいろな調律で弾いていますが、ものすごく違う、とは感じられない人も多いのではないでしょうか。

一般の人が感じ安いのは、6弦4フレットのハーモニックスと3弦1フレットの実音を同時に出した場合です。

ハーモニックスは弦の共鳴を利用したものなので純正律の音です。これに対して1フレットを押さえた音は平均律に基づいた音なので平均律の音になります。フレットの位置にかかわらずこの差は生まれ、これがハーモニックスで調弦してはいけないという理由です。

実際に弾いてみるとどれだけチューナーで頑張って開放弦の音を合わせても合わないかと思います。

後付フレットであるFretletで純正律にできなくもない

この音の濁りが気になる人のためにFretletというもので新たな音を足すことができます。

image16
FretletのHPより

要は指板に張り付けて使うフレットです。音の濁りが気になるところに張り付けることで濁りのない美しい和音を奏でることができます。

濁りが気になる場合は最もよく出てくる和音が響くように調整するのがいい

ギターが平均律楽器である以上、和音の濁りはどうしようもありません。

気にならなければ素直に開放弦の音を合わせればいいわけですが、気になる場合は調律後にその曲で最もよく出てくる和音が美しく響くようにあえてずらすのが良いといわれています。

ただし、良い耳が求められるので、安易にやると逆効果になる可能性もあります。

音楽は意外と理系

音楽は芸術的な分野に思えて、実はその理論は数学で成り立っています。

とはいえ、音楽を楽しむのは機械ではなく人間なので、究極的には気持ちよく弾けたり聴けたりすればいいわけです。理論は理論として音楽を楽しむ妨げにすべきではありません。

この辺りの理論をより知りたい人には以下の本がお勧めです:

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クラシックギター情報ブログ 最高の一音を求めて

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