ハカランダ以外のローズウッドの輸出および輸入規制が緩和へ ギタリストへの影響は?そもそもCITESによる輸出規制って?

ハカランダの木目 楽器

クラシックギターによく使われる木材であるローズウッド系の木材は輸出と輸入規制があることはよく知られているかと思います。その規制が一部緩和されるという情報が入ってきました。ギターを弾く人にはどのような影響があるのでしょうか?そもそもCITESと呼ばれる規制はどのようなものでしょうか?

ローズウッド系の木材の輸出入を規制するCITESとは

まずはCITESとはそもそもどのようなものかという話です。

ギターの裏板及び側面板の材料については以下の記事を参照ください:

CITES=ワシントン条約

まず、ローズウッド系の輸出と輸入を規制しているのはCITESと呼ばれる条約です。

これは、”Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora”の略で、日本語では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」と呼ばれます。

象牙の取引でよく「ワシントン条約」というのを聞いたことがあるかと思いますが、これはワシントンでこの条約が決められたことを示しており、CITESと同じものを指します

1975年3月3日にアメリカのワシントンD.C.で署名が行われ、1975年7月1日から効力が発生しています。

結構古い条約なのですが、人類がどんどん自然環境を変えているので、適用対象についてはたびたび見直されており、2019年8月に第18回の締約国会議(COP18)が行われています。

絶滅危機の恐れによって3種類のカテゴリーに分類される

ワシントン条約の対象になったからと言ってすぐにすべての動物や植物が同じ扱いになるわけではなく、どれだけ絶滅の危機に瀕しているかによって3つのカテゴリーに分類され、それぞれ扱いが異なります。

附属書カテゴリI

最も絶滅の危機に瀕している種が分類されるカテゴリです。ローズウッド系の木材ではハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)が該当します。

このため、商業目的の国際取引が制限されます。具体的には、輸出または輸入を行う場合、各国の政府機関の輸出許可書・輸入許可書が必要になります

当然許可書の発行条件も厳しく、学術目的や加工済みの製品(ギターもここに含まれる)の商業取引に関しては輸出入の許可書が交付されます。

また、カテゴリIIが輸出国の許可のみでいいのに対し、カテゴリIは輸入国の許可も必要であるのがポイントです。海外からハカランダを使った楽器を直接買おうと思うと、売るひとだけではなく、買う人も自分の国の許可を取らなくてはなりません。なかなか面倒です。

現在、約1,050種がこのカテゴリに入っています。

附属書カテゴリII

カテゴリIIの場合は絶滅の恐れと追いうよりは、その動物や植物が違法な手段で入手されないように規制するものです。ローズウッド系の木材はハカランダ以外すべてこのカテゴリに入ります。上の記事でも書きましたが、結構ギャングやマフィアの資金源になってるみたいです。

このカテゴリに分類された動物や植物は輸出国の輸出許可書が必要です。許可書にはその動物や植物が違法に取引されたものではないかとを示す必要があります。

ギターにとって重要なのは、以前はカテゴリIIのものを使用した加工品などは申請不要だったのですが、2016年改正(2017年1月2日発効)で一部でも使用している加工品もていれば対象となることになってしまいました。さらに、新品か中古品かにもかかわらないため、製品の状態で輸入したものを再度海外へ輸出する場合も規制対象となりました。

現在、約34,600種がこのカテゴリに分類されています。ちなみにローズウッド系では以下の種が登録されているようです:

  • サイアミーズローズウッド
  • マダガスカルローズウッド
  • ココボロ
  • ホンジュラスローズウッド
  • インディアンローズウッド
  • イーストインディアンローズウッド
  • アフリカンブラックウッド
  • キングウッド
  • チューリップウッド
  • ブラジリアンチューリップウッド
  • ユカタンローズウッド
  • アマゾンローズウッド
  • メキシカンローズウッド
  • ブビンガ
  • アフリカンローズウッド

附属書カテゴリIII

地球上から絶滅の危機にあるのではなく、ある地域で絶滅の危機にある動物や植物がここに分類されます。

ギターにはあまり関係ないようですが、このカテゴリに分類されると輸出国の輸出許可書または原産地証明書が必要となります。

COP18で楽器が規制の対象外に

このようにローズウッド系の木材がが規制対象にされてしまったので、ギター業界のみならず音楽業界が悲鳴をあげていました。

その声があまりに大きかったためか先述のCOP18においてこの件について審議が行われ、以下のことが決定されました。

オ 高級木材種(ローズウッド)
 附属書IIに掲載のまま楽器(部品を含む)等の規制対象からの除外が決定された。

外務省のHPより

というわけで、楽器に加工されたものであれば規制対象としないよ、となったわけです。楽器に使う量はたかが知れているのでギャングやマフィアの資金源とはなりづらいということなのでしょう。

ただし、附属書Iのハカランダについては資金源の問題ではなく種の絶滅の問題なのでそのままです。

ギタリストにとって何が変わるのか?

では、この変化によってギタリストには何が変わるのでしょうか?

ここからは法律的な話になるので、もしかしたら間違っているところもあるかもしれません。内容も変わるかもしれませんので、実際にその場面に遭遇したら問い合わせすることをお勧めします。

日本でギターを買う場合: 変化なし

日本で日本の店からギターを買う場合、今までもハカランダの楽器を買っても特に手続きが不要だったように、特に変化がありません。

商業目的で海外からギターを輸入する場合でもハカランダ以外のローズウッドを使った楽器の手続きの場合は今までも輸入国(日本)の許可は不要だったのであまり変わらないかと。楽器の作られた国(輸出国)の手続きが不要になるので発送が早くなるということはあるかもしれません。

海外赴任や旅行でギターを持ち出す場合: 変化あり

海外赴任や旅行でギターを国内から海外に持ち出すことがあるかと思います。この場合、正確には「再輸出」の扱いとなります。

個人の場合には「個人の携帯品の輸出入に関する特例措置」があり手続きが簡略化されています。ただし、これは相手国にも特例措置がある場合に限られ、ない場合には商取引と同じように申請が必要です。

具体的にはこちらのHPを参照いただきたいのですが、携帯品と職業用具については出国時に申告していればいいことになっています。

ここで携帯品と職業用具の定義は、

携帯品:手荷物、衣類、書類、化粧品、身辺装飾用品その他本人の私用に供することを目的とし、且つ、必要と認められる貨物
職業用具:本人の職業の用に供することを目的とし、且つ、必要と認められる貨物

外務省のHPより

となっています。プロのギタリストが海外で演奏する場合は後者、それ以外は前者になるのでしょう。

実際にはすべての手荷物を検査するわけではないので特に申請せずに通ってしまう場合もあるようですが。。。

海外でギターを買って持ち帰る場合: 変化なし?

海外旅行や海外赴任の際にギターを買って持ち帰るというケースもあるかと思います。

このようなお土産として持ち帰る場合にも特例的なものがありますので、特例の範囲内であれば変化はないと思われます。。

条件は、

1. 附属書Ⅱに該当する動植物であって、1人当たりの個数が次の範囲内であること適用対象種
(ギターの場合は4個?)
2. 動植物の学名が生産者や販売者などの提供する書類などにより確認できること
3. 生きたものでないこと
4. 商業目的でないこと

外務省のHPより

となっています。

まず、附属書Iのハカランダについては対象になりませんので手続きが必要です。

また、ギターを複数買って帰って日本で売って一儲けというのは4番目に引っかかるのでNGです。

さらに、ギターを買った際に2番目に対応する書類を入手しておく必要があります。

この特例は日本のものであり、ギターを買った国から出国する場合は別途手続きが必要かもしれないので、個別に確認が必要です。

これらに引っかかった場合のみ恩恵を受けることができそうです。

個人には直接恩恵はないが楽器業界としては良い変化

このように調べてみると、個人にとっては直接的には特にメリットはなさそうです。

しかしながら、楽器を輸入して販売している業者にとってはありがたい変更でしょうし、海外を飛び回るギタリストもいらぬ検査や手続きを要求されることも少なくなりそうです。

一方で、この条約の目的は音楽業界の衰退ではなく種の保存であるということも忘れてはいけません。ハカランダが欲しいからと言ってどんどん使ってしまえばなくなってしまいます。これからも長くギターという楽器を繁栄させるには木材資源の保護が重要であり、規制自体もある意味やむを得ない面もあるのでしょう。

新材料を含めいろいろな探求がなされているようですが、全体として正しい方向に向かうことを願ってやみません。

タイトルとURLをコピーしました